企業研修に使える補助金・助成金は?

企業の研修の費用をなるべく抑えたい方は補助金・助成金を活用するのがおすすめです。本コラムでは、企業の研修に使える補助金・助成金をご紹介します!
梅沢 博香

更新日:

企業研修に使える補助金・助成金は?

この記事を監修した専門家

監修専門家: 井上卓也行政書士

井上 卓也

代表・行政書士

補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。

慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。 『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。 リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。

企業研修に使える補助金・助成金は?

企業研修には、厚生労働省の「人材開発支援助成金」が活用できます。この制度を利用することで、企業は研修にかかる経費や研修中の賃金の一部について、国から助成を受けることが可能です。この制度は、企業が従業員に対して行う職業訓練や研修を支援するために設けられており、国の助成金制度の中でも企業研修で最も広く活用されている代表的な仕組みです。

一方で、国は企業研修そのものを対象とした「補助金」は設けていません。ただし、一部の自治体では特定業種や地域を対象に、研修費を支援する独自の制度を実施している場合があります。

代表的な例としては、介護人材の確保を目的とした研修支援、事業承継に向けた後継者教育、外国人材受け入れのための日本語研修などがあります。自治体の制度は、国の助成金と併用できる場合も多く、活用することで総合的な支援額を増やすことが可能です。自社の所在地や業種に合った制度を確認すると良いでしょう。

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人材開発支援助成金とは?

人材開発支援助成金とは、厚生労働省が企業の人材育成を支援するために設けている助成金制度です。企業が従業員に対して行う研修や職業訓練にかかる経費や賃金の一部を国が助成する仕組みで、企業研修で最も広く活用されています。

人材開発支援助成金は、企業が実施する職業訓練や研修を対象に、費用の一部を助成する制度です。国(厚生労働省)が所管し、業種や企業規模を問わず利用できます。外部機関による研修だけでなく、eラーニングや社内研修(一定の要件あり)も幅広く対象となります。

制度の基本的な仕組み

項目内容
所管厚生労働省
対象企業が従業員に対して行う職業訓練・研修
支給方式事前申請→研修実施→実績報告→助成金支給(後払い)

正社員・契約社員・パートタイムなど、雇用形態を問わず対象となる場合があります(要件あり)。
幅広い研修形式に対応しており、実務的な教育訓練に活用しやすい制度です。

対象となる企業・従業員

人材開発支援助成金の対象は、雇用保険に加入している事業所であれば、業種や企業規模を問わず利用可能な点が特徴です。特に中小企業による活用が多く、幅広い人材層を対象にした研修で利用されています。

項目内容
対象企業雇用保険適用事業所であれば業種・規模不問
主な利用層中小企業を中心に幅広く活用
対象従業員正社員・契約社員・パートタイム(要件あり)

人材開発支援助成金を利用するには、雇用保険に加入していることが基本条件です。契約社員やパートタイムの方でも、要件を満たせば対象となる場合があります。研修の内容や実施方法、従業員の構成に応じて、比較的柔軟に活用できる制度です。

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人材開発支援助成金の3つのコース

人材開発支援助成金には、企業の研修内容に応じて3つのコースがあります。特に注目されているのは、DX・デジタル分野の人材育成を対象とした「人への投資促進コース(リスキリング)」で、補助率・対象範囲ともに最も手厚い支援を受けられます。本コラムでは、以下3つのコースの概要を比較し、それぞれの特徴を詳しく解説します。

コース名対象となる研修経費助成率(中小企業)/特徴
人への投資促進コース(リスキリング)DX・デジタル分野、生成AI、プログラミングなど最大75%/DX人材育成に特化。今最も注目度の高い制度
特定訓練コース専門的・実践的なスキル研修45〜60%/生産性向上や新技術習得に活用される
一般訓練コース新入社員・階層別研修など幅広い内容30%/基礎的な研修でも使いやすい制度

人への投資促進コース(リスキリング)

人への投資促進コース(リスキリング)は、DX・デジタル人材の育成を目的として2022年度に新設されたコースです。企業のDX推進や新市場開拓に直結する専門スキルの研修を対象としており、補助率や対象範囲が他コースよりも優遇されています。

対象研修

  • 生成AI、データ分析、RPA、プログラミングなどのデジタル分野が中心
  • 外部研修・eラーニング・社内研修(要件を満たす場合)など、さまざまな形式に対応

補助内容

項目内容
経費助成研修費の最大75%まで補助
賃金助成受講1時間あたり最大960円支給

このコースは、DX分野や生成AIの活用など、企業の成長戦略と直結する分野を対象としており、現在最も活用が進んでいる制度です。

活用事例

製造業(従業員30名程度の地方中小企業)を想定しています。
課題:
生産工程のデータ化が十分に進まず、現場ごとに作業効率や品質にばらつきがありました。若手社員から「AIを活用した生産管理を学びたい」という声が上がっていましたが、外部研修の費用負担が大きく、導入を見送っていました。

制度を使った取り組み:
企業は「人への投資促進コース」を活用し、外部の研修機関で「Pythonによるデータ分析・可視化」に関する研修を受講。経費の大部分が助成対象となり、さらに受講時間に応じた賃金助成も活用しました(※実際の助成率は訓練内容や企業規模により異なります)。

成果:
研修を受けた社員が中心となって、設備稼働データを自動で収集・分析する仕組みを構築。生産ロスの可視化により、品質管理と業務改善が進み、現場の判断スピードも向上しました。社内で得た知見を他部署にも共有し、全社的なデジタル化推進のきっかけとなりました。

参考:人材開発支援助成金

特定訓練コース

特定訓練コースは、専門的・実践的なスキルアップ研修を対象とするコースです。DX分野以外の実務スキルにも幅広く対応できるのが特徴で、安定した利用実績があります。

対象研修

  • 専門的・実践的なスキルアップ研修が対象
  • 例:営業力強化研修、専門ITスキル研修、製造技術の高度化など
  • 業種を問わず活用可能

補助内容

項目内容
経費助成率45〜60%
賃金助成1時間あたり760〜960円

活用事例

サービス業(従業員20名/地域密着型企業)のケース
課題:
新規顧客の獲得が伸び悩み、営業担当者ごとに提案内容や成約率にばらつきがありました。管理職も若く、営業ノウハウの共有や後輩育成の仕組みづくりが進んでいませんでした。

制度を使った取り組み:
企業は「特定訓練コース」を活用し、外部講師を招いた営業力強化研修を実施。営業担当・管理職を対象に、ヒアリング技術、プレゼンテーション、顧客管理(CRM)の活用などを体系的に学びました。経費の約半分が助成対象となり、賃金助成も受けられたことで、費用負担を抑えつつ全員参加の研修を実現できました。(※実際の助成率・支給額は企業規模や訓練内容によって異なります)

成果:
研修後、顧客対応力が全体的に向上し、提案内容の質が均一化。チーム内で成功事例の共有が進み、成約率と顧客満足度がともに改善しました。また、研修内容をまとめた社内マニュアルを作成し、今後の新人教育にも活用。従業員のモチベーション向上と組織定着にもつながりました。

参考:人材開発支援助成金

一般訓練コース

一般訓練コースは、新入社員研修や階層別研修、マナー研修など、基礎的な内容の研修を対象としたコースです。特別な専門スキルを必要としないため、幅広い企業が利用しやすい制度です。

対象研修

  • 新入社員研修、階層別研修、マナー研修など、基礎的な研修が対象
  • 専門スキルに限らず幅広い内容に活用可能

補助内容

項目内容
経費助成率30%
賃金助成1時間あたり380円

このコースは、小規模事業者や初めて制度を活用する企業でも申請しやすい、ベーシックな支援内容が特徴です。

活用事例

小売業(従業員15名/地域密着型店舗運営企業)のケース
課題:
地域競合の増加により、接客品質やサービスの差別化が課題となっていました。また、新入社員の離職が多く、教育体制が整っていないことから、スタッフ全体の接客レベルにばらつきが生じていました。

制度を使った取り組み:
企業は「一般訓練コース」を活用し、新入社員向けビジネスマナー研修および階層別接客スキル研修を実施。ロールプレイングを交えた対面形式で、挨拶・言葉遣い・クレーム対応などの基礎から学び直しました。研修費の一部(最大30%)と、受講時間に応じた賃金助成(1時間あたり最大380円)が適用され、費用を抑えながら全員参加型の研修を実現しました。(※助成率・支給額は企業規模や訓練内容により異なります)

成果:
研修後、店舗全体で接客の統一感が生まれ、顧客対応品質の向上とクレーム件数の減少傾向が見られました。スタッフ間の連携もスムーズになり、職場の雰囲気が改善。さらに、研修内容をマニュアル化することで教育の標準化が進み、新入社員の定着率向上にもつながりました

参考:人材開発支援助成金

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申請の基本的な流れと準備のポイント

人材開発支援助成金を活用するには、事前の計画と申請が不可欠です。研修の実施前から申請、実績報告、支給までの一連の流れを正しく理解し、必要書類や手続きを早めに準備しておくことで、スムーズに助成金を受け取ることができます。

申請〜支給までの基本フロー

企業は、以下の5つのステップで申請から支給までを進めます。特に「研修開始日の1か月前までの事前申請」が必須であり、期限を過ぎると助成対象外になるため注意が必要です。以下、基本的な申請フローです。

  1. 研修計画・カリキュラムの作成:助成対象となる研修内容・時間・講師・対象者を明確にし、計画書を整備します。
  2. 事前申請(研修開始日の1か月前まで):訓練実施計画届を所轄の労働局へ提出します。期限を過ぎると対象外になるため、余裕を持った準備が必要です。
  3. 研修の実施・記録の保存:研修を実施し、出席簿・研修資料・写真などの実施記録を適切に保存します。
  4. 実績報告・支給申請:研修終了後、実績報告書と必要書類を提出します。申請期限は「訓練終了日の翌日から起算して2か月以内」です。
  5. 審査・助成金支給(後払い):審査を経て、要件を満たしていれば助成金が支給されます。支給は後払い方式です。

申請時の注意点

申請では、次の5つのポイントを必ず押さえましょう。

1.事前申請の期限を厳守する

研修開始日の1か月前までに「訓練実施計画届」を提出していない場合、どんなに内容が優れていても助成対象外になります。

2.研修内容が制度の趣旨に合致しているか確認する

特に「人への投資促進コース(リスキリング)」では、DX・デジタル分野など政策目的に沿っているか、実務的なスキル習得につながる内容か、が審査で重視されます。趣旨に合わない場合は不支給になるケースもあるため要注意です。

3.講師・カリキュラムの要件を満たす

社内研修の場合でも、次の基準を確認しましょう。外部の研修機関・専門家と連携することで、書類不備や設計ミスを防げます。

  • 講師の経歴・専門性が適切か
  • 研修時間や内容構成が基準を満たしているか
  • カリキュラムが体系的に設計されているか

4.内容変更時は必ず「変更届」を提出する

事前申請後に研修内容や日程を変更する場合は、所定の変更届を提出する必要があります。提出を怠ると助成金の対象外になるおそれがあります。

5.申請方法と提出先を確認する

申請期限や添付書類の形式は各都道府県労働局の要領に従いましょう。

自治体の補助金制度もチェックしよう

企業が研修費の支援を受ける方法は、国の「人材開発支援助成金」だけではありません。自治体が独自に実施する研修・人材確保関連の補助金制度も数多く存在します。これらの制度は、地域や業種ごとに対象・支援内容が異なるため、自社の所在地や事業分野に合わせて併用を検討することが重要です。
以下では、実際に自治体が行っている代表的な制度を紹介します。

静岡県「潜在介護支援専門員人材確保事業費補助金」

静岡県では、介護分野の人材確保を目的として、潜在的な人材を就業に結び付けるための研修などを支援しています。

項目内容
対象介護支援専門員(ケアマネジャー)の資格を有し、潜在状態にある人材を就業に結び付けるための研修などを実施する事業者
内容研修の実施・参加にかかる費用の一部を補助
目的介護・福祉分野の人材確保・育成を推進

介護・福祉業界では、県独自の人材研修支援制度が設けられているケースが多く、静岡県はその代表例といえます。
参考:静岡県

北海道士幌町「商工業事業承継対策事業(令和7年度)」

士幌町では、地域の事業承継と人材育成を目的とした研修補助制度を実施しています。

項目内容
対象士幌町内の商工業者
内容事業承継に伴う後継者・従業員への研修費や人材育成費用を一部補助
目的町内事業者の事業承継・人材育成を支援し、地域経済の活性化を図る

小規模自治体でも、事業承継や後継者育成に重点を置いた実践的な研修補助制度が整備されている点が特徴です。
参考:北海道士幌町

徳島県「外国人材受入環境整備事業補助金」

徳島県では、外国人材を受け入れる企業の教育・研修体制を支援する補助制度を設けています。

項目内容
対象外国人材を受け入れる県内企業・団体
内容受入体制の整備や、日本語研修・就業研修など外国人材への教育にかかる経費を補助
目的外国人材の受入拡大と企業側の教育・研修体制の強化

外国人材を積極的に活用する企業にとって、国の助成金と併用できるケースも多く、実務的な支援策となっています。
参考:徳島県
自治体の補助金制度は、国の助成金と併用できる場合が多いのが大きな特徴です。業種や地域に特化した制度が多いため、自社の事業内容や地域特性にマッチすれば、比較的申請要件を満たしやすい傾向があります。また、公募期間や対象者が限定されることが多いため、自治体の公式サイトや商工会議所の情報を定期的にチェックすることが活用の第一歩になります。

お住まいの自治体の企業研修に使える制度を調べる!

よくある質問

企業が「人材開発支援助成金」を活用する際によく寄せられる質問と回答をまとめました。申請前に確認しておくことで、要件の見落としや手続きの遅れを防ぐことができます。

Q1. 社内で講師を立てて行う研修も対象になりますか?

はい、自社講師による研修でも一定の要件を満たせば対象になります。講師に実務経験や専門知識があること、研修の目的・内容・時間数が制度基準を満たしていることが条件です。これらが確認できない場合は不支給となる可能性があるため、事前に計画書を提出して要件を確認することが重要です。

Q2. パート・契約社員の研修も助成対象になりますか?

雇用保険の被保険者であれば、パートや契約社員も助成対象になります。
ただし、雇用契約内容や勤務実態によっては対象外となる場合があります。たとえば、短期間のみ雇用される方や研修期間中に退職予定の方は対象にならないケースもあります。
制度の適用条件はコースによって異なるため、事前に確認しておくと安心です。

Q3. 申請は自社でできますか?

自社での申請も可能です。ただし、助成金の申請には研修計画書・就業規則・賃金台帳など複数の書類が必要で、要件確認も複雑です。そのため、実務上は社会保険労務士や研修会社など専門家のサポートを受けて申請する企業が多いのが実情です。弊社でも、提携企業を通じて助成金の申請サポートを行っています。

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Q4. 申請のタイミングはいつですか?

原則として、研修開始日の1か月前までに「訓練計画届」を提出する必要があります。ただし、最新の制度では提出可能期間が拡大され、研修開始の6か月前から1か月前までの間に申請できるようになっています。

また、研修終了後の「支給申請」は、終了日の翌日から起算して2か月以内に行う必要があります。スケジュールに余裕をもって準備しましょう。

Q5. リスキリングの対象になる研修かどうか分からない場合は?

助成金の対象となるリスキリング分野は年々拡大しており、判断が難しいケースもあります。弊社では、提携企業を通じて助成金申請のサポートを行っています。対象になるか不明な場合は、まずはお気軽にお問い合わせください。カリキュラム内容をもとに、対象可否や最適な制度のご案内をいたします。

人物

監修者からのワンポイントアドバイス

企業研修に活用できる補助金・助成金として、厚生労働省の「人材開発支援助成金」があります。この制度では、企業が従業員に行う研修費用や賃金の一部を国が助成します。特に中小企業に利用されており、DX分野を対象とした「人への投資促進コース」など、3つのコースが用意されています。各コース毎に助成率などが異なりますので要件を確認の上、準備を進めて行きましょう。