ものづくり補助金の給与支給総額とは?要件クリアのための計算方法と注意点

ものづくり補助金の申請で重要な「給与支給総額」のよくある疑問点をわかりやすく解説。CAGRの計算方法や注意点をチェックして、申請成功を目指しましょう!
中本 明日香

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ものづくり補助金の給与支給総額とは?

この記事を監修した専門家

監修専門家: 井上卓也行政書士

井上 卓也

代表・行政書士

補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。

慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。 『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。 リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。

ものづくり補助金の給与支給総額とは?

ものづくり補助金の要件の1つにある「給与支給総額」とは、全従業員(パートやアルバイトなどの非常勤を含む)や役員に支払った「給与や役員報酬」の合計額を指します。
先日発表された2025年の公募でも以下のとおり「給与支給総額」要件が設定されています。

1人あたり「給与支給総額」の年平均成長率が事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上または「給与支給総額」の年平均成長率が+2.0%以上増加

2025年のその他の基本要件

以下の要件を全て満たす3~5年の事業計画書を策定し、実行すること

  1. 付加価値額の年平均成長率が+3.0%以上増加すること
  2. 1人あたり「給与支給総額」の年平均成長率が以下のいずれかを満たすこと
    • 事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上
    • +2.0%以上増加
  3. 事業所内最低賃金が、事業実施都道府県の最低賃金+30円以上の水準を達成すること
  4. 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画を公表すること(従業員21名以上の場合のみ)

最低賃金引上げ特例適用事業者の場合、基本要件は以下の3項目となります。

  1. 付加価値額の年平均成長率が+3.0%以上増加
  2. 1人あたり「給与支給総額」の年平均成長率(上記条件を満たすこと)
  3. 次世代育成支援対策推進法に基づく一般事業主行動計画の公表


今回はこの「給与支給総額」についてのよくある疑問に焦点を当て、わかりやすく解説していきます。
2025年のものづくり補助金について以下のコラムで最新情報をくわしく解説しています!

ものづくり補助金2025とは?専門家が徹底解説!

参考:中小企業庁「2025年ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」チラシ

給与支給総額に含まれるもの含まれないもの

「給与支給総額」には、以下の項目が含まれます。

「給与支給総額」に含まれる費用

  • 含まれるもの
    • 給料・賃金
    • 賞与(ボーナス)
    • 役員報酬
  • 含まれないもの
    • 福利厚生費(例:健康診断費用や社員旅行費)
    • 法定福利費(例:社会保険料や雇用保険料)
    • 退職金

ものづくり補助金の給与支給総額の増加要件

2025年のものづくり補助金の「給与支給総額」要件では、以下のいずれかを満たす必要があります。

  1. 1人あたり「給与支給総額」の年平均成長率が、事業実施都道府県における最低賃金の直近5年間の年平均成長率以上であること。
  2. 「給与支給総額」の年平均成長率が+2.0%以上増加すること。

年平均成長率のポイント

「給与支給総額」の年平均成長率は、複利計算(CAGR)を用いて算出します。

  • 1人あたり「給与支給総額」は、給与総額を従業員数で割った金額を基準に成長率を計算します。
  • 最低賃金の成長率は、都道府県ごとに異なるため、最新の数値を確認する必要があります。

「給与支給総額」と人件費の違いは?

「給与支給総額」と人件費の違いは、以下の表のとおり含まれる項目の範囲にあります。

項目給与支給総額人件費
含まれる項目給料、賃金、賞与、役員報酬給与支給総額 + 福利厚生費、法定福利費、退職金等
福利厚生費含まれない含まれる
法定福利費(保険料)含まれない含まれる
退職金含まれない含まれる

つまり、「給与支給総額」は人件費の一部を構成するものとして捉えると分かりやすいです。

要件を満たすためのポイント

  • 都道府県の最低賃金の成長率は定期的に確認し、1人あたり「給与支給総額」の増加を計画的に進める。
  • 補助金申請前に「給与支給総額」の伸び率をシミュレーションし、要件未達による返還リスクを回避する。
    • このように、最新の要件では「最低賃金成長率」か「+2.0%以上の給与総額増加」のどちらかを選択できるため、自社の状況に合わせた目標設定が重要です。

給与支給総額の伸び率(年平均成長率)の計算方法

「給与支給総額」の伸び率(年平均成長率)を計算する具体的な手順は以下の通りです。

  1. 対象期間の初年度と最終年度の「給与支給総額」を特定する。
    • 対象期間は、通常は事業計画期間となります。
    • 初年度と最終年度の「給与支給総額」を正確に把握します。
  2. 年平均成長率(CAGR)の計算式に当てはめる。

年平均成長率(CAGR)の計算式は、以下の通りです。

CAGR = (最終年度の給与支給総額 ÷ 初年度の給与支給総額)^(1 / 期間数) - 1

「^」は「べき乗」を表しています。「べき乗」とは、数値を何回掛け合わせるかを表す数学的な操作です。
簡単に言うと、「ある数を自分自身で指定された回数だけ掛け算する」ことを意味します。
CAGR計算では「期間数の逆数」をべき乗として使います。たとえば、対象期間が3年の場合は「べき乗」が 1/3(三乗根)となります。
期間数は、対象期間の年数です。

  • 計算結果をパーセンテージで表示する。

計算結果に100をかけてパーセンテージで表示します。
【例】

年度給与支給総額(万円)
2023年10,000
2026年12,599


この場合、期間数は3年、最終年度の「給与支給総額」は12,599万円、初年度の「給与支給総額」は10,000万円となります。

CAGR = (12,599 ÷ 10,000)^(1/3) - 1 ≒ 0.08 = 8%

つまり、この期間における年平均成長率は8%となります。

計算時に注意すべきポイント

  • 「給与支給総額」の定義: 「給与支給総額」には、給料、賃金、賞与、役員報酬などが含まれますが、福利厚生費、法定福利費、退職金などは含まれません。
  • 計算期間: 計算期間は、事業計画期間など、目的によって異なります。
  • 小数点以下の桁数: 計算結果の小数点以下の桁数は、目的や精度に応じて適切に設定します。
  • 複利計算: 年平均成長率(CAGR)は、複利計算に基づいて算出します。

よくあるミスと対策

「給与支給総額」においてのよくあるミスは以下の4点。

  1. 福利費や役員報酬の誤解
  2. 年平均成長率(CAGR)の計算ミス
  3. 都道府県ごとの最低賃金成長率の確認不足
  4. 決算期間や特別事情への対応不足

それぞれのミスと対策について以下に解説します。

1. 福利費や役員報酬の誤解

【ミスの内容】
「給与支給総額」と人件費を混同してしまうケースがよく見られます。
特に、福利厚生費や法定福利費(保険料)、退職金などは人件費に含まれますが、「給与支給総額」には含まれません。また、役員報酬を計算に含め忘れることもあります。
【対策】
1.給与支給総額の定義を正しく理解する
含まれる項目:給料、賃金、賞与、役員報酬
含まれない項目:福利厚生費、法定福利費、退職金
2.役員報酬を漏れなく計算に加える
特に中小企業では役員報酬の割合が高い場合が多いため、忘れずに含めましょう。

2. 年平均成長率(CAGR)の計算ミス

【ミスの内容】
複利計算(CAGR)を用いる際に、単純な年次比較や加算方式で計算してしまうことがあります。
また、計算対象期間が異なっている場合も誤解を招きやすいポイントです。
【対策】
1.正確な計算手順を確認する
年平均成長率(CAGR)の計算式を以下のように適用します。

CAGR = (最終年の給与支給総額 / 初年度の給与支給総額)^(1/年数) - 1

2.期間の整合性を確認する
対象期間が正しく設定されているか、決算期の変更など特別な事情がある場合は注意が必要です。

3. 都道府県ごとの最低賃金成長率の確認不足

【ミスの内容】
最低賃金の成長率が都道府県ごとに異なることを見落とし、全国平均の値を用いて計算してしまう場合があります。
これにより、最低賃金成長率以上の要件を満たしていないと判断されることがあります。
【対策】
1.最新の最低賃金データを取得する
各都道府県ごとの直近5年間の最低賃金の年平均成長率を確認し、正しい数値を使用します。
2.計画的に対応する
要件を満たすために必要な「給与支給総額」の増加額を事前にシミュレーションし、給与改定を計画的に実施します。

4. 決算期間や特別事情への対応不足

【ミスの内容】
決算期間が1年未満の場合や、特別な事情で一時的に給与が減少した場合に適切な補正計算がされず、要件を満たしていないと見なされるケースがあります。
【対策】
1.決算期間が短い場合
年間ベースに換算してCAGRを再計算する必要があります。特に、新設企業や決算期を変更した企業は注意が必要です。
2.特別事情がある場合
天災や事業規模縮小による特別な事情がある場合は、補助金事務局に相談し、適切な説明資料を添付して申請を行いましょう。

専門家のサポートでミスを未然に防ごう

「給与支給総額」の増加要件に関連するミスは、補助金申請全体に影響を与える可能性があります。
弊社では、最新の要件に基づく正確な計算サポートやシミュレーションを行い、採択率を高めるお手伝いをしています。

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給与支給総額が未達の場合の影響

これまでも説明したとおり、ものづくり補助金では、事業計画の要件として「給与支給総額の増加」が求められます。

この目標が達成できなかった場合、補助金の一部を返還する必要がある可能性があります。
以下にくわしく解説します。

1. 給与支給総額の増加目標が未達の場合

条件

  • 補助事業が完了した年度の翌年度以降、事業計画の終了時点で「給与支給総額の年平均成長率」が目標値に達していない場合、補助金の一部返還が求められます。

返還額の計算方法

  • 補助金の返還額は、以下の式で算出されます。
  • 返還額 = 導入設備等の残存簿価 × (補助金額 ÷ 実際の購入金額)
    • 残存簿価:導入した設備の簿価(会計上の価値)と時価(現在の市場価値)のいずれか低い方
    • 返還対象となるのは、補助金額に対応する部分です。

2. 例外的に返還を求めないケース

以下の場合は、「給与支給総額」の増加目標が未達でも補助金の返還義務は免除されます。

  1. 付加価値額の成長が低かった場合
    • 付加価値額(企業の売上高から原材料費や外注費を引いた利益額)の年平均成長率が低い場合、「給与支給総額」の増加目標の達成が難しいと判断されます。
    • そのため、「給与支給総額」の年平均成長率が「付加価値額の年平均成長率の半分(÷2)」を超えていれば、返還義務は免除されます。
  2. 事業者の責任ではない特別な事情がある場合
    • 例:地震や台風などの天災、その他避けられない外部要因により業績が悪化した場合。
  3. 特別な事情で「給与支給総額」が適切ではない場合
    • 「給与支給総額」の年平均成長率が「適切ではない」と判断される事情がある場合、代わりに「一人当たり賃金の増加率」を用いることが認められます。
【一人当たり賃金の増加率とは】
給与支給総額を従業員数で割った平均賃金の増加率のことです。

個人事業主の給与支給総額の算出方法は?

個人事業主の「給与支給総額」の算出方法

「給与支給総額」は、以下の3つの項目を合計して算出します。

算出式

給与支給総額 = 給料賃金 + 専従者給与 + 青色申告特別控除前の所得金額
  • 給料賃金(青色申告決算書の⑳):
    • 従業員に支払った給与や賃金。
  • 専従者給与(青色申告決算書の㊳):
    • 家族従業員(事業専従者)に支払った給与。
  • 青色申告特別控除前の所得金額(青色申告決算書の㊸):
    • 事業主自身の事業所得から、青色申告特別控除を引く前の金額。
    • ※ただし、この金額が赤字(マイナス)の場合は「0」として計算します。

注意点

  • 青色申告特別控除前の所得金額が赤字の場合は、「給与支給総額」に含めないことがルールです。
  • 「福利厚生費」や「法定福利費」、「事業主本人の生活費」は含まれません。

法人との違いは?

「給与支給総額」の算出方法の違いは、以下の点にあります。

個人事業主

「給与支給総額」には、「従業員への給料賃金」「専従者給与」「青色申告特別控除前の事業所得」が含まれます。
事業主自身の収入は事業所得として扱われ、給与ではなく事業の利益から生活費などを賄います。

法人

「給与支給総額」には、「従業員給与」と「役員報酬」が含まれます。法人では、経営者や役員の報酬が「役員報酬」として計上され、法人の経費にすることで節税が可能です。

つまり、個人事業主は事業所得が直接収入に含まれるのに対し、法人は役員報酬を明確に区分し経費処理できるという違いがあります。

よくある質問(FAQ)

Q.決算期の変更により、基準年度における決算の期間が1年に満たない場合、「給与支給総額」等はどのように記載すればよいでしょうか?

決算の期間が6か月の場合、その額を2倍にするなど、12か月相当分の数値を記載します。

なお、「給与支給総額」など、基準年度における12か月分の金額が積算可能な場合は、その額を記載しても構いません。

Q.特別な事情で一人当たり賃金増加率が認められる具体例とは?

役員や従業員が、自己都合により退職した場合や自然退職した場合であって、かつ求人等を行っても人材の確保が困難な場合などが想定されています。

「 事業計画終了時点において、給与支給総額の年平均成長率1.5%以上増加の目標が達成できていない場合は、導入した設備等の簿価または時価のいずれか低い方の額のうち補助金額に対応する分(残存簿価等×補助金額/実際の購入金額)の返還を求めます」とあるが、この「事業計画終了時点」とは、いつのことを指している?

「 事業計画終了時点」とは、3年の事業計画であれば3年後、5年の事業計画であれば5年後を指します。
3年の事業計画の場合、3年後の「給与支給総額」が基準年度の「給与支給総額」と比較して 4.568%以上増加していれば良く、期中の年度で目標の増加率を達成していなくても、返還を求められません。

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給与支給総額を正しく理解し、ものづくり補助金を活用しよう!

ものづくり補助金を活用する際、「給与支給総額」の計算は非常に重要です。この項目は、補助金の要件を満たすかどうかを判断する大きなポイントとなるため、正確な理解と適切な記載が求められます。しかし、計算ミスや解釈の誤りがあると、後に補助金の返還を求められるリスクも。こうしたリスクを回避するためには、正しい知識と細心の注意が必要です。

計算ミスを防ぎ、返還リスクを回避するために

「給与支給総額」の計算において、最低賃金の引き上げ率や要件を正確に反映させることは必須です。特に、以下の点に注意が必要です。

  • 事業実施都道府県ごとの最低賃金の確認
  • 給与の年平均成長率の算出方法
  • 計算結果の要件との一致確認

これらを怠ると、補助金の審査において不利になったり、最悪の場合、補助金の返還が求められることもあります。

専門家のサポートを活用しよう

「計算が正確か不安」「条件に適合しているかわからない」といった不安を抱える方には、補助金申請の専門家のサポートをおすすめします。
弊社では、これまでに多くの補助金申請を成功に導いた実績があり、特に「給与支給総額」に関する複雑な要件の解釈や計算についても的確にサポートいたします。
専門家のサポートを受けるメリット

  • 最新の要件や法改正情報に基づいたアドバイス
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