株式会社の目的変更をする方法は?すぐに目的変更すべき理由

株式会社の事業目的(定款)を変更した場合、速やかに変更手続きをしないと、過料や罰則といったペナルティが発生します。 今回は株式会社の目的変更手続きについて速やかに行わなければならない理由も併せて解説します。
井上 雅也

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株式会社 目的変更

この記事を監修した専門家

監修専門家: 井上卓也行政書士

井上 卓也

代表・行政書士

補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。

慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。 『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。 リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。

株式会社の目的変更をすぐに行うべき理由

はじめに株式会社の目的変更を行うべき理由について解説します。

  • 会社の信用に関わる
  • 取引や契約が無効になるリスク
  • ペナルティを受ける可能性がある

会社の信用に関わる

株式会社が目的変更を速やかに行うべき理由のひとつは、会社の信用に大きく関わるためです。

理由として、登記されている事業目的と実際の事業内容が異なる状態が続くと取引先や金融機関からの信用を損なう可能性があるからです。

登記情報は、取引先や関係機関が会社の基本情報を確認する際に参照する重要な資料です。

そこに記載された事業目的が現実と食い違っていると、「情報管理が杜撰な会社」と見なされるリスクがあります。

取引や契約が無効になるリスク

株式会社が目的変更を遅らせた場合、実施している取引や契約が無効とされるリスクがあるため、速やかな対応が求められます。

これは、定款に記載されていない目的で事業を行っている場合、その行為が「定款に基づかない行為」とみなされ、法的な有効性が問われる可能性があるからです。

特に第三者との契約においては、登記事項にない事業での契約が「権限外の取引」と判断されると、トラブルの原因となる可能性があります。

こうしたリスクがあることを理由に、取引自体を断られるケースもあるので注意しましょう。

このように、登記された目的と実際の事業内容が一致していない状態は、法的トラブルや信用の失墜に直結します。

ペナルティを受ける可能性がある

株式会社が目的変更を怠ったまま事業を継続した場合、会社法や商業登記法に基づいて罰金などのペナルティが科される可能性があります。

これは、会社法および商業登記法において、会社の登記事項に変更が生じた際には一定期間内に変更登記を行うことが義務づけられているからです。

具体的には、会社法第915条において、登記事項に変更が生じた場合は、2週間以内に登記しなければならないと規定されています。

これに違反した場合、会社法第976条第1号により、正当な理由がなく登記を怠った者は、100万円以下の過料に処するとされています。

ここでの「過料」とは、刑事罰ではないものの、法的な義務違反に対する行政上の制裁措置です。

このような処分は、会社にとって経済的負担となるだけでなく、法令遵守に対する姿勢が問われ、対外的な信用低下にもつながります。

株式会社の目的変更はどこで行うのか

次に株式会社の目的変更手続きはどこで行うのかを解説します。

  • 管轄の法務局
  • オンライン申請
  • 書類作成サービス

管轄の法務局

株式会社の目的変更は、まず定款の変更を株主総会で決議したうえで会社の本店所在地を管轄する法務局で変更登記を行います。

  • 特徴:書類の準備から提出までを自力で行う
  • メリット:書類不備によるトラブルを避けやすい
  • デメリット:平日の受付時間内に訪問する必要があり、移動や待ち時間が発生する

また、管轄の法務局に郵送で申請することも可能です。
参考:法務局

オンライン申請

登記ねっとを利用すれば、インターネット上で目的変更を申請することができます。

  • 特徴:自宅やオフィスから手続きできる
  • メリット:手続きのタイミング、受け取り方法の選択が自由
  • デメリット:事前準備として電子証明書の取得やシステムへの慣れが必要

参考:登記ねっと

書類作成サービス

近年は、司法書士事務所や登記専門サービス業者が提供する書類作成サービスを利用する企業も増えています。

  • 特徴:目的変更の一連の流れを代行してくれる
  • メリット:専門家に依頼することでミスを防げる
  • デメリット:依頼料や手数料が発生したり、思っていたサービスを受けられない可能性

コスト面で自己申請よりも負担が大きくなるため、費用対効果を踏まえて判断する必要があります。

株式会社の目的変更に必要なもの

株式会社 目的変更
株式会社の目的変更手続きをする際に必要なものを解説します。

株主総会の決議に関する書類

目的変更は定款の変更を伴うため、株主総会の特別決議が必須です。この決議に関する下記の書類は、すべての申請方法で共通して必要になります。

  • 定款の変更内容(修正後の事業目的を明記)
  • 株主総会議事録(事業目的の変更を決議した内容を記載)
  • 取締役の決定書または代表取締役の決定書(代表者が単独で申請する場合)
登記申請に必要な書類・情報

目的変更後には登記を行う必要があります。その際には次の書類や情報が求められます。

  • 印鑑届書(必要に応じて)
  • 会社実印(申請書類への押印に使用)
  • 登録免許税の納付(一律3万円、収入印紙で納付)
  • 登記申請書(変更内容、会社情報、申請者情報を記載)

※オンライン申請の場合は、以下も追加で必要となります。

  • 電子署名に対応したICカードとカードリーダー
  • 登記ねっとの利用環境(事前登録、電子証明書)
書類作成サービスを利用する場合

専門業者や司法書士に依頼する場合には、上記書類を自分で用意する必要はないこともあります。

依頼先から送付される入力フォームに従って情報を提供すれば、必要な書類を代行作成してくれます。

  • 委任状(登記申請を代行する場合)
  • 本人確認書類(代表者の身分証明書など)
  • 必要事項の回答(目的変更の内容、株主構成など)

株式会社の目的変更を行う方法

ここで実際に株式会社の目的変更を行う手順について解説します。

  • 郵送
  • オンライン
  • 管轄の法務局窓口
  • 書類作成サービス

郵送

まず、郵送での手続きを行うには、定款変更に関する株主総会の決議を行い、以下の書類を揃える必要があります。

  • 会社の実印を押印した書類一式
  • 委任状(代理人が申請する場合)
  • 登録免許税(3万円分の収入印紙を貼付した用紙)
  • 取締役会議事録または取締役決定書(必要な場合)
  • 株主総会議事録(事業目的変更を決議した内容を明記)
  • 返信用封筒(登記完了後の書類を受け取るための切手付き封筒)
  • 登記申請書(目的変更の内容、会社名、本店所在地、登記の種類などを記載)

登記申請書に貼付する登録免許税は3万円で、これは全国共通です。

収入印紙は郵便局や法務局の売店などで購入可能で、申請書の所定欄に貼付します。

書類がすべて揃ったら、会社の本店所在地を管轄する登記所(法務局)宛に簡易書留やレターパックなどで郵送します。

返信用封筒には、登記識別情報通知などの返送先住所を記入し、十分な郵便料金の切手を貼付して同封します。
参考:法務省

オンライン

株式会社の目的変更は、「登記ねっと」を利用して、インターネット上から申請することが可能です。

オンラインで申請するには、まず利用者登録を行う必要があります。

登記ねっとの公式サイトから申請者情報を登録し、電子証明書(ICカード)を使ってログインできるように設定します。

電子証明書は、法人代表者のマイナンバーカードや、商業登記電子証明書などが利用可能です。
申請手順

  1. 登記ねっとのシステム上で、会社情報や変更する目的内容を入力して申請書を作成(ファイル形式はXMLで作成され、署名が必要)
  2. 株主総会議事録や取締役の決定書など、必要な添付書類をPDFファイル等で用意し、電子署名を付与して添付
  3. 作成した申請書および添付書類に電子署名を行い、オンラインで法務局へ提出
  4. 登録免許税は3万円で、オンライン申請の場合は電子納付(Pay-easyやインターネットバンキング)で支払う
  5. 申請後、法務局で内容が審査され、不備がなければ登記が完了
  6. 手続き完了後は、登記識別情報通知などの結果通知がオンラインで届くか、または郵送で送られる

また、手数料そのものは窓口・郵送と同額ですが収入印紙を購入する必要がない点も利便性のひとつです。

管轄の法務局窓口

株式会社の目的変更は、本店所在地を管轄する法務局の窓口で直接申請することができます。

書類をその場で提出し、不備があれば窓口で指摘を受けられるため、確実性を重視する場合に適した方法です。
必要書類の準備

  • 登記申請書(目的変更の内容を記載)
  • 定款の変更後内容(写しを添付する場合あり)
  • 印鑑届書(会社代表者印の届出が必要な場合)
  • 登録免許税(3万円分の収入印紙を貼付した別紙)
  • 株主総会議事録(目的変更の特別決議内容を記載)
  • 取締役会議事録または取締役決定書(必要に応じて)

申請手順

  1. 会社の本店所在地を管轄する登記所(法務局)に、平日の開庁時間内に出向き、窓口で書類一式を提出
  2. 問題がなければ数日〜1週間程度で登記が完了し、「登記完了通知書」または「登記識別情報通知書」が郵送または窓口で交付

登録免許税の金額は、他の申請方法と同様に一律3万円で、収入印紙により納付します。

収入印紙は法務局内の売店や近隣の郵便局で購入でき、所定の台紙に貼付して提出します。
参考:法務局

書類作成サービス

株式会社の目的変更は、司法書士事務所やオンラインの登記専門サービスが提供する書類作成サービスを利用して行うことも可能です。

自社で書類を一から作成する必要がなく、法務局への申請も代行してもらえる場合があるため、手間を最小限に抑えたい企業に適しています。
申請手順

  1. インターネットなどで書類作成サービスを提供している専門業者や司法書士事務所を選び、Webフォームや電話から申し込みを行う
  2. 申し込み後、変更したい事業目的の内容、現在の登記事項、株主構成などを入力フォームを通じて提供する
  3. 提供された情報をもとに、専門家が登記申請書、株主総会議事録、取締役会議事録など、目的変更に必要な書類をすべて作成
  4. 完成後、PDFファイルまたは紙面での確認用データが依頼者に送付され、内容に誤りがないか最終確認を行います。
  5. 確認済みの書類が郵送またはPDFで届いたら、所定の位置に会社の実印を押印する
  6. 印鑑を押した書類を同封の返信用封筒で返送することで、登記申請の準備が整います。
  7. サービスによっては、法務局への申請も代行してくれる場合がある
  8. 登記が完了すると、登記完了通知や登記識別情報などが返送され、手続きがすべて終了します。

費用については、登録免許税3万円に加えて書類作成手数料(相場で1万円〜3万円程度)や登記申請代行費用が別途必要です。

依頼する業者によっては、定額パッケージとして提供している場合もあります。

株式会社の目的変更をする際の注意点

株式会社が目的変更を行う際の法的・実務的な観点からみた注意点を解説します。

  • 目的の記載方法に注意する
  • 名称変更との混同を避ける
  • 定款変更の決議要件を満たす
  • 事業目的に関連する許認可の確認をする
  • 税務署や行政機関への届出も忘れずに行う

目的の記載方法に注意する

事業目的として記載する内容は、具体的かつ適法な表現でなければなりません。

たとえば「各種サービス業」や「コンサルティング業」といった抽象的すぎる表現では、登記時に補正を求められる可能性があります。

また、法令に違反する事業内容や、公共の秩序に反する表現も使用できません。実際の事業内容に即した記載とすることが大切です。

名称変更との混同を避ける

「目的変更」と「商号(会社名)の変更」は異なる手続きです。しかし、事業の拡大に伴って社名変更も検討されることがあります。

その際は、目的変更と商号変更を別々の議題として株主総会で決議し、それぞれの登記手続きを行う必要があります。

混同したまま一括で処理しようとすると、手続きが無効となる可能性があるため注意が必要です。

定款変更の決議要件を満たす

事業目的の変更は、定款の変更にあたるため、株主総会での特別決議が必要です。

これは、会社法第309条第2項11号に基づくもので、議決権を持つ株主の過半数が出席し、かつ出席株主の3分の2以上の賛成を得なければ成立しません。

この要件を満たさない場合、変更そのものが無効となります。議決権の確認や委任状の管理にも細心の注意が求められます。

事業目的に関連する許認可の確認をする

新たに追加する目的によっては、特定の許認可が必要となる場合があります。

たとえば、「人材紹介業」や「建設業」、「宅地建物取引業」などは、それぞれの業法に基づく許認可を受ける必要があります。

目的を変更した後で許可要件を満たしていないことが判明すると、事業の開始自体ができなくなるリスクがあるため、事前に各省庁や行政機関で確認しておくことが求められます。

税務署や行政機関への届出も忘れずに行う

目的変更後、登記が完了したとしても、それだけでは手続きが完了したとはいえません。

税務署、市区町村、年金事務所などへの変更届出も必要になる場合があります。

これらを怠ると、行政上の手続きが滞ったり、税務調査の際に指摘を受ける原因となるため、登記完了後は関係各所への届出も漏れなく行うようにしましょう。

株式会社の事業目的(定款)とは?

株式会社 目的変更
株式会社の事業目的とは、その会社が行う事業の範囲を明確に定めたものであり、定款に記載される法定記載事項のひとつです。

定款とは、会社の基本的なルールを定めた憲法のような存在です。

設立時に必ず作成し、公証人の認証を受けたうえで、法務局に登記することが義務づけられています。

事業目的の記載は、会社がどのようなビジネスを行うのかを明示するものであり、取引先や金融機関、株主などに対して会社の活動内容を示す重要な情報源となります。

事業目的は、登記簿謄本にもそのまま記載されるため、外部から会社の信用性や業務範囲を確認する際の基礎資料となります。

たとえば、「ソフトウェアの開発および販売」「飲食店の経営」「不動産の売買および仲介」など、会社が実際に行う予定の事業内容を具体的に列挙する必要があります。

また、将来的に展開を検討している事業についても、あらかじめ定款に記載しておくことで、スムーズな事業開始や取引の障害を避けることができます。

株式会社の目的変更に関するよくある質問

最後に株式会社の目的変更に関するよくある質問をまとめました。

Q.会社の目的変更が必要な場面はいつですか?

A.新規事業を始める場合や、既存事業を拡大・変更する場合に必要です。

Q.目的変更の際、同時に定款変更手続きは可能ですか?

A.可能です。目的変更と同時に他の定款変更も株主総会の特別決議で行えます。

Q.法務局・オンライン申請の受付時間を教えてください

A.各受付時間は、以下の通りです。

  • 法務局:平日(月~金)の午前8時30分から午後5時15分
  • オンライン申請:平日(月~金)午前8時30分から午後9時

まとめ

今回は、株式会社の目的変更手続きについて、速やかに変更手続きを行わなければいけない理由と併せて解説しました。

株式会社の定款に変更があった場合、変更手続きを怠ると過料が科されるので注意してください。

自身で申請手続きする場合は問題ありませんが、専門家に依頼する場合は、サービスを選ぶ段階で失敗しないように気をつけてください。

今回のコラムを参考に、まずどのような申請方法で目的変更手続きを行うか決めていきましょう。

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