このコラムのポイント
- 従業員ゼロでも役員報酬の賃上げで申請・賃上げ要件を満たせる
- 従業員数の変動や労働者名簿の提出ルールを把握し、誤りのない申請が大切
- 従業員数は雇用形態に関係なく、常時使用する従業員で正確に算定することが必須
ものづくり補助金の従業員とは、法人は「常勤役員+従業員」、個人事業主は「家族従業者+従業員」を指します。申請枠や補助上限に影響するため、就労実態に基づいて正確に算定しましょう。

カミーユ行政書士事務所代表・行政書士
補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。
慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。 『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。 リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。
企業の発展を支えるためには、補助金の活用が大切です。
その中でも、ものづくり補助金は多くの企業にとって魅力的な支援制度のひとつです。
ものづくり補助金は、正式名称をものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金といいます。
中小企業や小規模事業者が新製品や新サービスの開発、設備投資を行う際に活用できる補助金制度です。
もの補助やものづくり助成金とも呼ばれています。
ものづくり補助金における従業員数の定義は、中小企業基本法の常時使用する従業員に基づいて定義されています。
これは、労働基準法第20条の規定に基づく、あらかじめ解雇の予告を必要とする者のことです。
出典:労働基準法とは?法律の内容、ルールについてわかりやすく解説
定められた雇用形態に該当する従業員が含まれます。
ものづくり補助金の申請をするには、一定の要件を満たさなければなりません。
特に従業員数の要件をクリアすることが求められます。
この従業員数の定義には、正社員だけでなくアルバイトや契約社員も含まれるため、企業側は正確な従業員数の把握が必要です。
これからものづくり補助金における従業員数の定義や、適切な申請のポイントについて説明していきます。
参考:【公式】ものづくり補助金総合サイト
出典:従業員満足度(ES)とは?
従業員としてカウントされる雇用形態を確認しておきましょう。
正社員は、ものづくり補助金において従業員数にカウントされます。
ただし、試用期間中の従業員は除外されます。
試用期間とは雇用開始日から14日以内の期間を指し、この期間中は解雇予告の義務がないため、従業員数には含まれません。
契約社員も基本的に従業員としてカウントされます。
しかし、アルバイトやパートと同様に、雇用期間が2か月以下の場合や、季節的な業務で4か月以内の場合は従業員数としてカウントされません。
ただし、雇用期間が延長された場合は従業員として扱われます。
アルバイトやパートは一般的に従業員としてカウントされます。
ただし、雇用期間が2か月以下の場合や、季節的な業務で4か月以内の契約で雇用された場合は、従業員数に含まれません。
なお、当初予定していた雇用期間が延長された場合は、従業員として扱われます。
参考:従業員の範囲
下記の役職の人たちは従業員とは定義されないので、気を付けましょう。
出典:役員と従業員の違いとは?労働時間や加入する社会保険の違いを解説
役員は労働者とは異なる立場であり、労働基準法の適用外とされます。
出典:【労働基準法とは?】わかりやすく簡単に解説!人事が知っておきたい内容
役員は会社の経営に関与し、方針決定などを担うため、労働者には該当しません。そのため、ものづくり補助金においても従業員数としてカウントされません。
日々雇い入れられる者は労働基準法の適用外とされているため、従業員としてカウントされません。
ただし、1か月以上の雇用契約がある場合は従業員としてみなされる可能性があります。
従業員がいない場合でも、ものづくり補助金の申請は可能です。
従業員を雇っていなければ、ものづくり補助金に申請できないと勘違いしている方は多いです。
それは、ものづくり補助金の要件のひとつに、事業場内最低賃金を、毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準とするという文言があるからでしょう。
この要件があるため、従業員がいない場合は申請ができないと考えられがちです。
しかし、実際には役員報酬を賃上げすることで要件を満たせます。
公式サイトには、給与支給総額に役員報酬が含まれると明記されているため、適切な増額を行えば問題ありません。
参考:【公式】公募要領
ものづくり補助金の申請を行う際には、以下の点に注意しましょう。
ものづくり補助金では正社員だけでなく、非正規雇用者も含めて従業員数を計算するため、自社の雇用形態を正確に把握してください。
次のような雇用形態の労働者は、常時使用する従業員には含まれません。
このように、従業員数を算定する際には、単に正社員の数をカウントするのではなく、パートや契約社員も含めて計算してください。
参考:ものづくり補助金のご案内
補助金の申請後に従業員数が変動する可能性があるため、定期的に人事データを確認し、適切な申請内容になっているかをチェックしてください。
従業員数に応じて補助率が異なる場合があります。そのため、事業の成長に伴い補助金の適用範囲が変わる可能性がある点を理解しておきましょう。
A. 誤った従業員数で申請すると、補助上限や申請枠の判定が変わってしまうため、不採択・返還のリスクがあります。必ず雇用契約書やシフト実績などの証拠資料で確認しましょう。
A. 申請後に従業員が増えても再申請は不要です。
ただし、採択後の報告書類に実際の従業員数を記載する必要があります。
A. 社会保険加入の有無は関係ありません。常時使用する従業員に該当すれば、人数に含まれます。
A. 含まれます。雇用契約があり、常時使用される労働者であれば、国籍を問わず従業員として扱われます。
A. 一時的な増額では要件を満たしません。継続的に報酬変更が反映されるよう取締役会議事録などの証拠資料を残しましょう。
A. 賃金台帳、雇用契約書、労働者名簿、源泉徴収簿、就業規則などが一般的です。
自治体や回によって指示が異なるため、公募要領を必ず確認しましょう。
A. 従業員がいなくても、役員報酬を引き上げれば賃上げ加点の対象です。
固定費への影響を考慮した計画をしましょう。
A. 常時使用に該当するかは実態で判断されるため、短縮後の勤務形態が継続するかがポイントです。
従業員数が21名以上で、申請時の従業員数と期末時点の従業員数が異なる場合は、労働者名簿の提出が求められます。
労働者名簿の管理を徹底し、必要に応じて提出できるよう準備しておきましょう。
出典:従業員名簿
労働者名簿は、ものづくり補助金の申請時に重要な役割を果たします。
企業は労働基準法に基づき、全従業員の労働者名簿を作成・管理する義務があります。
労働者名簿には、以下の事項を記載してください。
労働者名簿の様式には決まったフォーマットはありませんが、上記の情報が漏れなく記載されていることが必須です。
出典:労働者名簿は労務管理の基本
労働者名簿の提出が必要となるのは、以下のケースです。
一方で、以下のようなケースでは、労働者名簿の提出は不要です。
労働者名簿は労働基準法に基づき、職場に必ず保管しておきましょう。
厚生労働省のホームページ厚生労働省|主要様式ダウンロードコーナーから、書式をダウンロードすることも可能です。
ものづくり補助金を活用する際には、従業員数の要件を理解し、それに基づいた正確な申請が求められます。
従業員数には正社員だけでなく、非正規雇用者も含まれるため、適切に把握しておきましょう。
また、従業員数の変動や補助金の適用範囲についても注意し、申請書類を準備しておいてください。
さらに、特定の条件下では労働者名簿の提出が必要です。
労働者名簿の管理を徹底し、必要に応じてすぐに提出できるように準備してください。
正しい知識を持ち、適切な準備を行うことで、ものづくり補助金を最大限に活用し、事業の成長を促進しましょう。
ものづくり補助金に関するご相談がある場合は、専門の相談窓口を利用することをおすすめします。
担当者が詳しい内容を説明し、適切な申請手続きをサポートしてくれます。
2025年度には、ものづくり補助金を含む7つの主要な補助金制度が活用可能です。
企業の成長に向けて、適切な補助金を選び、事業を加速させてください。
ものづくり補助金の補助上限額は、従業員の人数によって大きく異なります。
このように、従業員の人数によって補助金の受給額が変わるため、申請時には正確な従業員数を確認してください。
ものづくり補助金では、小規模事業者の補助率は2/3とされています。
しかし、申請後に小規模事業者の定義から外れると補助率が1/2に変更されるため、注意しましょう。
公募要領にも記載されているように、補助事業実施期間終了までに小規模事業者の定義から外れた場合は、補助率が2/3から1/2に変更される可能性があります。
出典:人事労務の基礎知識
ものづくり補助金申請時における従業員数の管理には、以下の点に注意してください。
ものづくり補助金における従業員の定義は、補助金の受給要件や補助額に大きな影響を及ぼします。
特に、小規模事業者として申請する場合は、補助率が2/3から1/2に変更されるリスクを考慮し、事業期間中の従業員数を慎重に管理しましょう。
また、従業員がいない場合でも、役員報酬の増額によって要件を満たし申請が可能であることを理解してください。
出典:役員報酬とは。決め方や変更のタイミングについて説明します。
申請前に公募要領をしっかりと確認し、適切な対応を行うことが、補助金を最大限活用するためのポイントです。
ものづくり補助金に申請したい方の中には、個人事業主や法人として事業を営んでいるものの、従業員を雇っていない場合もあります。
こうした場合、ものづくり補助金の申請資格があるのかどうか気になる方は多いはず。
特に、申請に必要な従業員の定義について理解を深めることが大切です。
従業員なしの事業主でもものづくり補助金に申請できますが、具体的にどのように申請を進めるべきかを解説します。
まず、ものづくり補助金は従業員がいない事業者でも、申請可能な補助金ということを理解してください。
これは、ものづくり補助金の対象となる事業者に対して最低限必要な従業員数(従業員の下限)が定められていないためです。
従業員数が少ない場合でも、一定の条件を満たすことで申請可能です。
たとえば、小規模事業者や個人事業主の場合、従業員数が0人でも補助金の申請が可能です。
したがって、従業員がいない事業者でも、設備投資などを行うための補助金を活用できるでしょう。
具体的には、
などでも申請対象に含まれます。
出典:役員報酬とは?個人事業主の事業所得との違いや決め方も解説
従業員がいない場合でも、申請資格を満たすために役員報酬を賃上げする方法があります。
ものづくり補助金に申請するためには、基本要件として、給与支給総額を増やさなければなりません。この給与支給総額には、役員報酬も含まれています。
役員報酬を増額することで、従業員数が0人であっても申請に必要な条件を満たすことが可能です。
たとえば、年間で役員報酬を一定額増額することで、給与支給総額を増やせるでしょう。
公式サイトのFAQにも、役員報酬が給与支給総額に含まれることが明記されています。
これらの要件に役員報酬の増額を組み合わせることで、従業員なしでも補助金申請の要件を満たせます。
出典:電子証明書取得のご案内
ものづくり補助金の申請は、オンライン(電子申請)で行います。
この際、従業員がいない事業者は、従業員数を0として申請してください。
申請時に従業員数を0と記入しても、交付後に従業員数が増加しても問題はありません。
この場合、労働名簿を提出する必要はなく、申請後に従業員数が変更されても提出義務は発生しません。
したがって、従業員がいない場合でも、申請後に従業員数が増えても影響はありません。
とはいえ、事業主が従業員数0で申請を行う際は、従業員数0と記入することを忘れないでください。
ものづくり補助金では、従業員数によって補助金額が異なります。従業員数が多いほど、補助金額が増加します。
たとえば、従業員数が5人以下の場合、補助金額は最大750万円ですが、従業員数が20人以上の場合は最大1,500万円です。
従業員数が50人を超えると、さらに高額な補助金を受け取ることが可能です。
従業員数が少ない場合でも、最大で750万円の補助金を受け取ることが可能ですが、従業員数が増えれば、その分だけ受け取れる補助金額は増えます。
そのため、申請時には自社の従業員数を正確に記入しましょう。
ものづくり補助金は、従業員がいない個人事業主や法人でも申請できます。
従業員がいない場合でも、アルバイトや専従者の数を含めて申請し、役員報酬の増額を通じて基本要件を満たすことが可能です。
なお、電子申請においては、従業員数が0の場合は労働名簿の提出が不要です。
申請後に従業員数が増えても問題はありません。
申請を検討している事業主は、事業内容に応じた補助金額や要件を満たすために、事前にしっかりと準備を行いましょう。
ものづくり補助金は、中小企業や小規模事業者が新製品開発や設備投資に活用できる制度で、申請には従業員数の正しい理解が必要です。
従業員数は常時使用する従業員が基準で、正社員だけでなく、契約社員・パート・アルバイトも含まれます。
一方、試用期間中の従業員や短期雇用(2か月以内、季節的業務4か月以内)はカウントされません。
従業員数は補助金額に直接影響します。人数によって上限額が変わるため、算定を誤らないようにしましょう。
なお、従業員がいない場合でも、役員報酬の引き上げで要件を満たせます。
従業員数が多い企業では労働者名簿の提出が必要になるため、事前の整備も欠かせません。
申請後に従業員数が変動することもあるため、定期的な人事データの確認と最新情報の反映は忘れないでください。
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従業員数は申請枠・補助上限・補助率を左右する重要項目です。正社員だけでなく「常時使用」のパート等も実態で算定し、試用14日以内や短期雇用の除外要件は要注意です。役員・家族従業者の扱いは証拠資料(名簿・賃金台帳等)で固めて申請しましょう。