IT導入補助金は介護事業でもできる?介護業界での活用法
介護業界の事業者の中には、ITツールを導入して業務の悩みを解決したいと考える方もいるでしょう。そんな時、IT導入補助金が使える可能性があります。ここでは、IT導入補助金は介護業界でも利用できるか解説していきます。

この記事を監修した専門家

補助金・助成金を専門とする行政書士として、補助金申請サポート実績300社以上を有する。
慶應義塾大学卒業後、大手製薬会社での経験を積んだ後、栃木県・兵庫県に行政書士事務所を開業。 『事業再構築補助金』、『ものづくり補助金』、『IT導入補助金』をはじめ、地方自治体を含む幅広いジャンルの補助金に精通。 リモートを中心に全国の事業者の補助金申請サポートを行っている。
IT導入補助金では介護に係るツールも申請できる?
結論からいうと、介護業界でもIT導入補助金に申請できます。
現在介護業を営んでいる事業者で、介護事業にITツールを導入したいと考えている方は、IT導入補助金を検討してみると良いでしょう。
IT導入補助金は、業種を問わない補助金制度です。主に中小企業や小規模事業者を対象としていますが、個人事業主でも申請できます。
ただし、大企業となると対象外になるのでお気をつけください。大企業の場合、補助金を受けなくてもすでに潤沢な資金があり、自社だけで資金繰りができるものと考えられるからです。あくまで、これから事業を発展・拡大させたいと考える中小企業や個人事業主が対象です。
たとえば、デイサービスや訪問介護サービスを行っている介護事業者、さらに医療法人や社会福祉法人といった団体は、IT導入補助金を活用してITツールを導入できるでしょう。
IT導入補助金とはそもそも何?
具体的にIT導入補助金と介護の関係について解説していく前に、ここでいったん、IT導入補助金とは何かについて解説していきます。
IT導入補助金の正式名称は、サービス等生産性向上IT導入支援事業補助金といいます。前述した通り、主に中小企業や小規模事業者などが対象です。
事業者が生産性向上のためにITツールを導入する際、その導入費用の一部を国が補助してくれるのがIT導入補助金です。IT導入補助金を管轄しているのは経済産業省であり、特に業務効率化を図るために有用なツールを導入したいと考えている企業を支援しています。
通常、IT導入補助金は購入費用の半分以内で支給されます。
しかし、IT導入補助金の中にあるインボイス枠を選ぶと、さらに高い補助率となり、最大で4/5の支給がされることもあるでしょう。
IT導入補助金額の最大金額は450万円です。通常枠の場合は150万円~450万円です。このことからわかる通り、企業はIT導入補助金を活用すれば、多額の費用負担を減らして、新しいITツールを導入できるチャンスを得ることができます。
参考:IT導入補助金制度の概要
どんなITツールが導入対象になるの?
IT導入補助金では、さまざまなITツールを導入することが可能です。代表的な例としては、次のようなものがあります。
管理に関するITツール

出典:はじめてのCRM/SFA
- SFA(営業支援システム)
- CRM(顧客管理システム)
- カスタマーサポートツール
- MA(マーケティングオートメーション)
会計・経理関係に関するITツール

出典:会計ソフトfreee(フリー)の評判は?特徴やメリット・デメリットを徹底解説!
- 会計ソフト
- 経費精算システム
- 請求書発行システム
- 電子帳簿保存システム
生産管理に関するITツール

出典:【2025年|図解あり】生産管理システムとは?機能・メリット・選び方をわかりやすく解説
- 生産管理システム
- 在庫管理システム
- 品質管理システム
- 製品情報管理システム
人事・労務管理に関するITツール

出典:給与計算
- 給与計算システム
- 勤怠管理システム
- 採用管理システム
- 人事管理システム
これらのITツールは、どこの業界でも必要とされるツールといえます。もちろん、介護業界においてもこうしたITツールが必要になることはあるでしょう。そのため、介護事業においてもITツールに申請できます。
さらに、特定の業種で必要とされるITツールも補助の対象です。
たとえば、医療業界向けの電子カルテや、製造業向けの3D CADなどもIT導入補助金で導入できるでしょう。もちろん、IT導入補助金の審査に通り、交付決定がされたらの話です。
また、インボイス制度に対応した会計ソフト、受発注ソフト、決済ソフトなどのITツールも
補助対象に入ります。
インボイス制度に対応するために必要なソフトウェアなので、インボイスに係わる作業を簡素化したい事業者はぜひ検討してみてください.。こちらもIT導入補助金が採択されれば導入可能です。
参考:ITツールの登録について
どんなIT導入補助金を導入すべき?
IT導入補助金で申請できるITツールは豊富ですが、どんなツールを自社に導入すればいいか迷ってしまう方もいるでしょう。そんな時は、IT導入支援事業者に相談するとよいでしょう。IT導入支援事業者と呼ばれる業者は、多種多様なITツールを取り扱っており、どのツールが自社にとって最適かをアドバイスしてくれるからです。
また、生成AIツールや健康経営支援ツールなど、特定のツールを提供している事業者もあります。自社のニーズに合ったツールを見つけるために、こうした支援事業者と連携しましょう。
IT導入補助金の対象外となる経費は何?
IT導入補助金は有用ですが、いくつかの経費については補助対象外となるため、申請時には注意が必要です。
たとえば、次のような経費は補助対象になりません。
- 無料のツール
- 消費税などの公租公課
- リースやレンタル契約のITツール
- 顧客が実質負担する費用が含まれている
- 金額が定まっていないITツールの利用料
- 中古品や、交付決定前に購入されたITツール
- 交通費や宿泊費、補助金申請に関する代行費
これらの項目は、申請前にしっかりと確認し、補助対象外の経費を含まないようにしましょう。
IT導入補助金のメリットには何があるか

ここでは、IT導入補助金のメリットについてまとめます。
返済不要の資金が提供される
IT導入補助金は銀行の融資とは異なり、返済不要な資金が支給されます。そのため企業にとっては大きな経済的支援となるはずです。
業務効率化と生産性が上がる
IT導入補助金によってITツールを導入すれば、業務の効率化や生産性の向上が期待できます。
特に中小企業や小規模事業者では、紙やExcelを使った非効率な業務が多いため、IT導入補助金を利用して業務をデジタル化することで、企業全体のパフォーマンスアップにつながるでしょう。
従業員のモチベーション向上が期待できる
ITツールを導入すれば、従業員はより効率的に、楽に仕事を進められる可能性があります。これにより従業員のモチベーションを保ちやすくなるでしょう。
これまでよりも、社員にやる気になって働いてもらえる可能性も広がります。結果的に職場の雰囲気が改善され、離職率の低下にもつながり、会社と従業員にとってウィンウィンになるでしょう。
多様なITツールの選択肢がある
IT導入補助金は、会計ソフトや営業支援システムなど、さまざまなITツールに適用できる制度です。対象となるITツールの範囲が幅広いため、自社にとって最適なITツールを選びやすいでしょう。企業のニーズに合ったIT化ができます。
IT導入補助金は、ITツールを導入することで生産性を上げることや、近年導入されたインボイス制度への対応を支援する目的で創設されました。
IT導入補助金により、企業は最新のITツールを使って業務を効率化できるでしょう。その結果として、売上アップや従業員の満足度向上など、さまざまな利点が得られます。
IT導入補助金のデメリット
IT導入補助金によってデメリットになることも存在します。IT導入補助金の申請に伴い、次のことに留意しましょう。
確実にIT導入補助金がもらえるわけではない
大前提として、IT導入補助金は申し込めば必ず受け取れるものではありません。ここをしっかり確認しておきましょう。
漏れなく皆にもらえる制度ではなく、審査で選ばれた事業者だけ補助金を受給できます。
IT導入補助金に申し込んでも必ず審査があり、却下となれば補助金はもらえません。ということは、補助金でITツールを購入することはできないのです。購入するにしても、全額自己負担で購入しなければなりません。
申請手続きに時間と手間がかかる
IT導入補助金の申請は煩雑です。必要な書類を整える作業や手続きが必要とされ、それには多くの時間と労力がかかります。慎重に準備を進める必要がありますから、準備するのは負担が大きいでしょう。
そのため、多くの事業者が申請代行業者を活用し、手間暇を減らしながら手続きを済ませています。
申請手続きに時間と手間をかける余裕があれば自力でも構いませんが、そんな時間や労力はないという事業者は、専門家に協力してもらうことがおすすめです。
採択されても先に全額を支払う必要がある
IT導入補助金は後払い制です。そのため、採択されて補助金交付が確定したとしても、先に全額を支払う必要があります。その点を踏まえて導入を検討しましょう。
IT導入支援事業者とは何?
IT導入補助金を利用するには、必ずIT導入支援事業者として登録された企業からITツールを購入する必要があります。
IT導入支援事業者とは、補助金申請を支援し、ITツールの導入サポートを行う企業のことです。こうした支援事業者は、補助金の申請手続きに必要な書類作成や、ITツール導入の助言をしてくれます。
IT導入補助金の対象者になるのは誰?
IT導入補助金に申請し、受けられるのは、具体的には下記の条件を満たす事業者です。
中小企業
- 資本金が5000万円以下
- 従業員300人以下のその他の業種の事業者
- 従業員が100人以下のサービス業の事業者や、資本金3億円以下
医療法人や社会福祉法人
従業員が300名以下であれば可能です。
小規模事業者
従業員が5人以下のサービス業の事業者はもちろん、インボイス枠(電子取引類型)では、中小企業と取引がある大企業も対象です。
参考:IT導入支援事業者とは
介護業界でのIT導入補助金の活用について
前述したように、介護業界でもIT導入補助金を使ってITツールを導入し、業務を効率化することができます。
介護事業者の中でも、次のような事業者はIT導入補助金の対象となり、申請できるでしょう。
例)
- 医療法人や社会福祉法人
- デイサービスや訪問介護サービスを提供する事業者
これらの事業者は、新しいITツールを導入する際にIT導入補助金制度を活用できます。
介護業界における加点項目と審査
IT導入補助金の交付申請をする際には、必ず審査があります。その審査には加点項目という仕組みが設けられていることを理解しましょう。
IT導入補助金の採択率を上げたいなら、加点を増やすことをおすすめします。加点項目が多いほど審査において有利です。
介護業界でいえば、介護職員等特定処遇改善加算を取得している業者は加点されます。
このように、加点項目を意識して増やすほど審査でプラス要因として働き、採択される可能性は高まります。
介護職員等特定処遇改善加算について
介護職員等特定処遇改善加算という制度には、次のような特徴があります。
- 介護職員の賃金を上げる
- 職場環境を改善するための取り組みをする
これらに該当すれば、介護職員の確保や定着を促すための支援を受けられるでしょう。しかも、IT導入補助金の審査にも有利になります。
具体的には、次の要件を満たす必要があります。
キャリアパス要件
→職位や職責に応じた賃金体系の整備、研修機会の確保、昇給の仕組みを設ける。
職場環境等要件
→入職促進や資質向上、キャリアアップ支援、生産性アップのための業務改善など、職場環境の改善に向けた取り組みを行う。
審査の加点・減点項目
介護事業者がIT導入補助金を申請する際、加点項目が多いほど審査に有利な影響があります。
とはいえ、すべての事業者がこの加点項目に該当するわけではないでしょう。加点項目を増やしたくても、状況によっては困難な場合もあるはずです。
そんな加点項目に該当しない状況でも、審査で不利になると確定するわけではありません。加点項目が特にないのであれば、減点項目を減らすことに注力するのもひとつです。というのも、IT導入補助金の審査には加点項目だけでなく、減点項目も存在するからです。
どんなに加点項目をいっぱい稼げる業者でも、それ以上に減点項目が多ければ意味がありません。減点項目が多いと、申請が不採択になるリスクが高まります。
当然ですが、減点項目はないに越したことはありません。事前に自社の事業が減点項目に該当しないように、しっかりと確認や準備をしておきましょう。
まとめ
IT導入補助金は、介護業界の事業者にも有益な補助金制度といえます。
- 医療法人
- 社会福祉法人
- デイサービスや訪問介護サービスを提供する事業者
上記にあてはまるなら、IT導入補助金の対象となり、ITツールを導入する際に申請できます。
しかし、補助金を受けるためには審査を通過する必要があり、その際には加点項目や減点項目が影響を与えることを知っておきましょう。
介護業界の事業者は、ITツールを導入することで業務の効率化や生産性向上を図ることが可能です。
さらに、インボイス制度への対応も進めることができるでしょう。
IT導入補助金を利用する際には、しっかりと審査の仕組みや要件を理解し、準備を整えて申請してください。
介護業界に特化したITツール

出典:ほのぼのNEXT
IT導入補助金を活用すれば、特定の業界に特化したソフトウェアも導入できます。介護業界では、業務を効率化するために特化したITツールを導入することで、サービスの質を向上させることが可能です。
たとえば、介護業専用のソフトウェアであるほのぼのやカイポケなどが例です。

出典:はじめやすく、ずっと使える介護・看護・障害福祉ソフト
これらは、介護記録やケア記録を管理するために特化しており、クラウド上での情報共有ができます。これによって、従業員はスマホやタブレットを使って簡単に情報を記録・確認でき、業務の効率化が図れるでしょう。
さらに、クラウドを使ったデータ管理により、データの重複やミスを防ぐことが可能です。
実際にIT導入補助金を利用した事例
実際に、介護業界でIT導入補助金を活用した企業がいかに業務を効率化し、課題を解決してきたのでしょうか。
ここでは、実際にIT導入補助金でITツールを導入した介護事業者の事例を紹介します。
ほのぼのNEXTでどこからでもデータにアクセスできる
ある居宅介護やデイサービスを行う企業A社は、従業員数が35名いたものの、人手不足に悩んでいました。
また、出張中や休日に介護給付費や請求業務を行っていましたが、データがパソコンに保存されているため、業務が煩雑で効率が悪いことも課題のひとつ。
そこでA社は、介護業務支援ソフトウェアほのぼのNEXTを導入することで、ケア記録や請求業務をクラウド化を実現しました。
結果的に、在宅勤務や柔軟な働き方が可能になり、新たな人材の確保にもつながりました。
さらには、災害時でもクラウド上でデータにアクセスできるようになり、情報の管理が大幅に改善。
IT導入補助金を使えば介護業界での課題が解決するか?
介護業界における最大の課題のひとつは、従業員が忙しくてなかなか介護サービスに集中できないことです。人手不足と言われる介護業界においてはひとり当たりの介護業務の負担が大きいため、従業員は忙しくなります。
こんな時、ITツールを導入すれば、業務をより効率アップし、介護サービスに使える時間を増やせるでしょう。
また、ITツールによってデータの管理や情報共有が簡単になり、業務のミスや重複が減ります。その結果サービスの質が増し、従業員の働きやすさが改善されるはずです。
たとえば、訪問介護のサービス実施状況をスマホから報告できるCare-wingのようなツールがあれば、従業員はリアルタイムで進捗を確認できるため、訪問先の漏れを防ぐことが可能です。
これによってサービスの提供がスムーズに進み、利用者に対するサービスの質が上がると考えられます。
まとめ
IT導入補助金は、企業が経営課題を解決するための重要な支援策です。
特に介護業界においては、業務の効率化を目指すためにITツールを導入すると効果的でしょう。人手不足解消や、業務の効率化につながり、結果的に顧客により質の高いサービスを提供できます。
ITツールを導入すれば、業務の自動化や情報の管理が効率化され、サービスの質や従業員の働きやすさが増すでしょう。
IT導入補助金を活用すれば、これらの課題を解決し、より良い経営を実現できるはずです。
IT導入補助金の利用法・手順
IT導入補助金を利用するには、補助金の対象となるITツールを選び、その導入計画を申請する必要があります。
申請には、事業計画書や予算案などの書類が必須です。
また、導入したいITツールがどの枠に該当するかを確認し、適切な枠を選びましょう。
申請後は審査が行われ、採択された場合は補助金を利用してITツールを導入することが可能
です。
導入後はITツールを効果的に活用し、経営課題を解決するための取り組みを進めましょう。
おわりに
IT導入補助金を活用することで、介護業界の事業者は業務の効率化を図り、ITツールを導入するための経済的負担を軽減できるでしょう。
ITツールの導入によって生産性向上が期待でき、従業員のモチベーションアップや職場の雰囲気改善にもつながります。
しかし、申請手続きには時間や労力がかかり、審査に通る必要があるため、慎重に準備を進めてください。
IT導入補助金の適用範囲や対象外経費について理解し、適切なITツールを選ぶことで、介護業界におけるデジタル化の一歩を踏み出せるでしょう。
IT導入補助金を活用すれば、介護事業者も効率的にITツールを導入し、生産性を向上させることができます。正確に申請手続きを進めるためにも、しっかりと準備を整えた上で申請してください。
監修者からのワンポイントアドバイス
IT導入補助金では介護業界の方も活用頂くことが可能です。この記事にありますように特定の業界に係るITツールもIT導入補助金では取り扱いがあるため非常に有用なツール導入の機会となります。是非一度ご検討されることをお薦めさせて頂きます。